数とは何か

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 普通の人は「数とは何か」というようなことは考えずに生活しています。もしも「数とは何か」と問われたなら、多くの人は返答に窮すると思います。例えば一個の物体は、それは純粋な1そのものではなく、あくまで物体です。一人の人間も同様に人間であって、1そのものではありません。そうすると数そのもの、あるいは純粋な数とはどんなものなのでしょうか。

 例を用いて純粋な数とはどんなものかを考えます。最初に3個のリンゴと3個の石を比較してみましょう。リンゴには味も臭いもありますが、石には味も臭いもありません。しかしどちらも3個という点では共通していますので、純粋な数には味も臭いもないということが分かります。ただ、どちらも触ることが出来て、見ることも出来、同じ一個の物体です。しかし、数は物体だけを表すものではありません。そこで、次は3個の石と3分間という時間の長さを比較してみます。石は見たり触ったり出来ますが、時間の長さは見ることも触ることも出来ません。どちらも3という点では共通していますので、純粋な数は見ることも触ることも出来ないことになります。 こうして考えると、純粋な数には感覚的性質がないと思われます。

 ところが感覚的性質のないものは、人間には簡単には認識できません。それどころか、頭の中で想像するのも困難です。そのために我々は数を表すために数字を用いてます。例えば三または3、あるいはVなどです。このようにして、我々は数を見えるようにします。他には、日本語でサンまたは英語でthreeなどのように、数を音声で表します。こうして、我々は数を聞こえるようにします。また視覚障害者のためには、触って認識できる点字があります。このように感覚で数を認識できるようにしないと、我々は数を認識できないのです。純粋な数には感覚的性質がないはずなのに、我々は数に形や音を与えて、数を扱います。

 これは非常に不思議なことです。我々は常に数を用いています。特に現代社会において数は重要で、私たちは数に囲まれて生活しています。まず時計を見ますし、物を売り買いするには数は絶対に必要です。家族の人数は憶えておく必要がありますし、エレベーターに乗るときは目的地が何階かを知っていなくてはいけません。我々は十分に数に親しんでいて、十分に数を使っています。それなのに数そのものは、見ることも触ることも出来ず、味も臭いもありません。我々は数について知っているつもりですが、本当に知っているのでしょうか。

 この問題を最も深く考えたのは古代ギリシャ人です。古代ギリシャの時代、多くの哲学者が「数とは何か」を議論していました。当時は世界三大宗教もなく、ギリシャには皇帝もいなかったので、人々は自由に何の先入観もなく議論が出来ました。この問題に対する答えそのものは出ませんでしたが、当時の議論は今でも十分価値があります。その後も多く哲学者や数学者がこの問題を議論してきましたが、未だに誰もが納得する解答は得られておらず、一時はあまり議論されなくなっていました。ところが最近では再びこの問題が研究対象として取り上げられるようになってきました。数という概念を作り出したのは人間の脳ですが、生物学が脳を研究対象に出来るまでに進歩したからです。

 フランスの神経科学者であるスタニスラス・デハーネは、この問いに対して「哲学的に思索するだけでは解答は得られないのではないか」と述べています。そしてデハーネ自身は、長年にわたって数の認知に関する神経科学を研究して、解答を目指しています。確かに数という概念は脳が作り出したものですから、「数とは何か」という問題を解決するには、神経科学を用いて脳を研究するのは正攻法と考えられます。ところが神経系を持たない生物でも数を利用します。

 例えば桜の花びらは必ず5枚です。またクローバーは三つ葉と決まっており、四つ葉のクローバーは珍しいので、見つけた人には幸運が訪れるとされます。まるで植物は数を認識しているように見えます。さらに生命の根源に遡ると、大腸菌が分裂するときは、必ず一つの個体が二つに分かれます。また違う遺伝子をもつ細菌同士が遺伝子をやりとりする接合も、必ず一対一で行われます。まるで大腸菌も一対一の対応を知っているかのようです。

 このように神経系に関係のない生命現象にも数は関与します。そこで私は、神経科学を中心に生物学全般を基礎に「数とは何か」を考察して、ある程度の結論に到達したので、2006年にこのサイトで発表しました。その内容には数学的なものが多かったので、数学の生物学的基礎と題名をつけました。その後により深い考察を行い、2009年になって本文の構成を変更しましたが、その本文について今回は情報とは何かと題名を変更した上で、より深い考察を加えて現在改訂中です。さらに2011年版として、より簡潔に数学的な部分を中心とした数と図形を作りました。

 「数とは何か」という問いに対して、歴史上始めて解答を与えたものと自負しております。数は人間の認知の基礎であり、科学の基礎でもあります。「数とは何か」の答えは、全ての科学と哲学の基礎となると考えています。誰にでも理解しやすいページにしたつもりですので、哲学に興味のある方や、全般的な科学の基礎に興味のある方、数学の基礎に興味のある方に、このページを読んで頂きたいと思っています。なお、生物学と数学の予備知識の少ない方のために、サプリメントを用意しました。


目次


 

数と図形

  1. 自然数による世界の認識
  2. ユークリッド幾何の構成
  3. 数論とユークリッド幾何の結合
  4. 数直線の切断
 

情報とは何か

数学の生物学的基礎

  1. 数の起源
  2. 数と神経細胞の活動電位
  3. 数のイデア
  4. エッジの抽出
  5. 点と線と面の関係
  6. 連続について
  7. 数と感覚
  8. 無限と連続
  9. 実数とは何か
  10. 数と量の関係
  11. 対角線論法について
  12. 切断を表す有理数の表

サプリメント

  1. 数と人間
  2. マイナスかけるマイナスはなぜプラスか
  3. 北斎の秘密
  4. アナログとデジタル
  5. DNAとデジタル信号
  6. デジタル化の意味




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あとがき

 私は精神科医をやっていますが、認識とは何か、自分とは何か、このような事を常に疑問に思い、考え続けてきました。ただ一人で考えてきましたが、他の人の意見も聞きたくて、自分の考えをホームページに発表してみました。メールでの御感想や御意見をお待ちしています。

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胡谷和彦


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