初めてのデートの前々日。2005年の11月8日

朝の駅で、みほと会うのは初めてだった。デートを決めた3日後。
それが、みほができる平和への小さな願いなのかもしれない。

初めてのデート前々日

朝。雅夫は松原団地駅に向かって歩いていた。
歩くというより、早足に近い。しかも、息を止めて早足で行く。
(あと、少し、あの電柱まで。)
息を大きく吸い込むと、また、息を止めて歩く。
(次はどこを目標にしようか。)
冬が近づくと、このトレーニングを始めるのであるが、
今年はその開始時期が去年より早い。みほが原因だろうか。
しかし、まだ、雅夫にそういう自覚はなかった。

駅の改札口の手前30mぐらいの所で、雅夫は前を歩くみほを見つけた。
朝の駅で、みほと会うのは初めてだった。
みほは、駅員に向かって何かをしゃべり、頭を下げた。

雅夫は走って、みほに追いついた。
「はぁはぁはぁ。今、何を話していたんだい。」
「あら、雅夫くん。ただ、お早うございますって言っただけよ。」
「知り合いなのかい。」
「名前も知らないわ。
でも、私がお早うございますって言えば、あの駅員さんも気分がいいでしょ。
それで、あの駅員さんが二人の人に親切にすれば、
その二人の人は気分が良くなるでしょ。
そして、その二人の人が、4人の人に親切にするでしょ。」
「分かった。それが10回繰り返されると、2の10乗だから、1024人だな。」
「そんな単純な計算にはならないと思うけど、
女子高生のかわいい笑顔は相当な力を秘めていると思うわ。」
「日本には女子高生は100万人はいるから、1024×100万で10億人だ。
これは、日本だけでなく世界を変える力になるかも知れない。」
「それは単純すぎる計算だけど、そうなってくれると、うれしいわ。」

それが、みほができる平和への小さな願いなのかもしれない。

「雅夫くんこそ、真っ赤な顔をして、どうしたの。」
「毎日、駅まで、息を止めながら歩いてるんだ。」
「それ、山のため。」
「うん。12月中はコートもセーターも着ないし。」
「それも山のため。」みほがムッとした表情で言った。
そんな、みほの表情は初めて見たので、雅夫はビックリした。
「いけないかなぁ。」
「いけなくはないけど。もういいわ。そんな事。電車が来たわ。」
そこで、この会話は途切れてしまったが、雅夫の頭には何か奇妙な感じが残った。

電車は高架になっているので、遠くに秩父の山々が見えた。
「雅夫くんが行こうとしているのは、あそこに見える山?」
「いや、もっと遠くの、もっと高い山。今頃は雪が積もっているかもしれない。」
そう言って、雅夫は何か後ろめたさを感じた。
何年後かにはヒマラヤの山にも行ってみたいと、思っていたが、
それは言ってはいけない事のように思えた。

次小さな恋のメロディと初めてのデート123へ続く

倍々ゲーム

スーパーでレジ袋をもらわない。これ自体は些細な効果しかない。
ところが、それを見た人がマネをして、同じ事をする。それを見た人がまたマネをする。・・・
この倍々ゲームの効果は大きい。
声高に環境問題について意見を発表するのも良いが、そういう意見は、もう既に世の中にあふれている。
駅のエスカレータ。誰が呼びかけたのでもなく、急ぐ人の為に片側があけられている。あれは、何人かの人達の行動が伝染していったのではないだろうか。
もっとも、片側に荷重が偏るのは故障の原因になるらしいが。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
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