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根付いた「悪い組織文化」

 昨今、歴史と伝統を誇る日本の大企業に不祥事が次々と表面化する事態が起こっています。 日産自動車の凋落、日本航空の経営破たん、三菱自動車のリコール隠しや燃費データ不正、 東芝の不正経理発覚によるイメージ失墜....etc。

 日本航空の場合、経営破綻した後に明るみに出た会社内の数々の問題点は、実は大半の従業員が認識していたといいます。  日産の再建に乗り込みV字回復させたカルロス・ゴーン氏は、 「再建の答えはすべて社内にあった」と言ったそうです。  つまり、何が問題だったかは明白だったのであり心ある社員はそれを自覚していた、というわけです。

 では、どうして問題が解決されず破滅に向かうまで誰も口出ししなかったのか........答えは、それが許されない組織内の文化が強固に形作られ、 誰もその文化から抜け出せないような体制になっていたからです。

 能力や実績ではなく上司に受けのよい人間だけが出世する人事考課がまかり通り、本当に優秀な管理職が育たない、年功序列の組織体系で下の者が上の者になかなか意見が言えない、 正論が通らない....これらは現在でもどんな組織にも見られる傾向であり、感情の生き物である人間にとって避けられない文化です。

 つまり、一度出来上がった組織文化というものは、ほっておくとドンドン強固に塗り固められ、マズイなと思ってもチョットやそっとの力では変えられないものになってしまう。   その文化を変えていけるのは、その組織に何のしがらみのない、破壊してでも変えていける強力な力を持つ第三者だけなのです。

  「バカは死ななきゃ治らない」と言いますが、一度根付いた悪い文化は企業なら倒産、軍隊なら全滅でもしない限り変わらないでしょう。    一旦作り上げられてしまった組織文化とは、それほどに根深いものなのかもしれません。(2014.12.19)

 2023年3月、「触らぬ神に祟りなし」で無用なトラブルは避け、「権力者の横暴は見て見ぬふり」し「強い者にひれ伏す」 日本社会の、まるで縮図のような出来事が起こります。    イギリス・BBCは、2019年に死亡したジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川(前社長)が、 デビュー前の10代を中心とする多数の少年(ジャニーズJr)たちに対し、 長期間にわたって性加害を繰り返していたとする記事を発信。  それにより権力にひれ伏すメディアの正体が赤裸々になっていったのです。(2023.10.19)


収益至上主義がもたらす経営破綻への道

 2018年、「地銀の優等生」とも言われたスルガ銀行がシェアハウス投資に絡む不正融資を行っていたことが明るみに出る事件がありました。   このスルガ銀行の不正融資問題は、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営する不動産会社「スマートデイズ」が経営破綻したことがきっかけで発覚しました。

 「かぼちゃの馬車」は、オーナーの多くがスルガ銀行の融資を受けてシェアハウスを購入。 その上でスマートデイズが借り上げて居住者を募集し、 徴収した家賃などからオーナーに賃借料を支払うという仕組みとなっていました。 そのスマートデイズが破綻したことでオーナーが賃借料を得られずに融資の支払いに窮するようになったのです。

 オーナーにスルガ銀行が融資する過程で、資産などの証明書類の改竄(かいざん)が横行、融資を受ける人の預金額の改竄、給与の改竄、融資によって建てられる物件の収益に関する書類の改竄、 物件が満室であるかのような書類の偽装など、行員らの手によって多岐にわたる不正の手口が横行していたことが明らかになります。

 いまの日本は終身雇用・年功序列型の日本式経営は過去のものとなり、実績至上主義の欧米型の経営が幅を利かせているといいます。 短期で収益をあげ株主に配当しなければ自分の首が危なくなる、 常に結果が求められる、という会社形態になってしまったわけです。 こういう世情が、銀行であれば市場調査や地域の事情など考慮しない高い融資実績が毎月目標として設定され、強い圧力がかけられ、 強引な経営に走る要因のひとつとなるわけです。

 業績不振で銀行全体が破綻してしまえば、従業員たちは路頭に迷い、高給取りの経営陣もその地位を失います。 映画によく使われる『やらなければ...を失うんだ』という決めセリフがありますが、 追い込まれのっぴきならない立場に立たさてしまうと、一線を越え後戻りできない世界に簡単に入り込んでしまうのがニンゲンの性なのでしょう。  スルガ銀行もどこかのタイミングを境に、一種の呪縛のような行動様式が蔓延し、不正行為も当たり前の文化が出来上がってしまったのかもしれません。(2018.9.20)


後戻りできなくなる事態を回避する仕組み

 いまや日本を代表する伝統的な大企業においてさえ、無茶な数値目標を与えて現場の尻を叩くことしか知らない経営陣に牛耳られてしまえば、かつての東芝や日産自動車がそうだったように、 粉飾決算、データ偽装、水増し請求など、法令違反やコンプライアンス違反が続出する事態は避けられなくなります。

 企業の不祥事が起こる度に、コンプライアンスが欠如していた...とお決まりのセリフが語られます。  コンプライアンスの直訳は「法令遵守」ですが、法令を守るだけではなく、 社会規範(常識、倫理・道徳観)に従うことも求められます。  さらに社内や業界ルールを守るという、コンプライアンスは3つの要素から構成されるといいます。

 そもそも公序良俗と無縁な意識の経営トップが利益追求に走れば、目標の達成のみが従業員の目的と化してしまいます。  目標達成のために不適切とわかっていても、 偽装などを行わざるを得ない状況が社内に醸成されてしまう.......誰かがブレーキを掛ける企業風土が欠落し、真正面から異を唱えることにもかなりの勇気がいる。    これが問題企業が次から次と誕生するお決まりパターンです。

 企業を統制し、監視する仕組みと言う意味で使われるようになった「コーポレートガバナンス(企業統治)」は、経営者の行き過ぎた収益追求の心理を諫め、 持続可能なかたちで成長を目指すように経営者に求める、ということが目的のはずです。

 そのために、経営から独立した存在の、経営者の取り組みを客観的に評価し、必要な改革を求めることができる力量を持つ社外取締役の登用が重視されるわけです。    しかし、現実はそんな優秀な社外取締役はおらず、お飾り的な人物がほとんどでしょう。  そもそもそんな人は自分で経営しています。

 結局、絶大な権力を手にし、「専横(せんおう・好き勝手に振る舞うこと)な領主」として君臨するような経営者が牛耳る組織は、一旦走り出してしまえばもう途中で止まることは許されず、 誰も止められなくなるわけです。  スルガ銀行も誰も不正行為に歯止めをかけるような声も行動も起きなかったといいます。    軍人が政治に介入し、日本が太平洋戦争に突っ走ってしまった当時も、恐らくこんな雰囲気だったのでしょう。

 「ビルから飛び降りろ」、「死んでみろ」、融資目標達成が達成できないスルガ銀行の行員たちに対し、こんな罵声を浴びせるパワーハラスメントは日常茶飯事だったといいます。

 「ものを投げつけられ、パソコンにパンチされ、おまえの家族皆殺しにしてやるといわれた」.....第三者委の報告書で示された行員へのアンケートでは、 こうした悲痛、というか虐待ともいえる回答が並んでいたといいます。 もう後戻りできなくなった人間のもつ残虐性、心の闇の深さというものをつくづく感じます。    このような組織が、日本にはもう生息していないことを祈るばかりです。(2018.10.20)


我慢の限界だったゴーン流経営

 欧米では、日本では到底考えられないような高額報酬を得ている経営者は大勢いるようですが、日本の場合、従業員と経営者に報酬の差が何桁もある会社はまだまだ多くはありません。

 個人の才覚で何百億円という利益を手にするような業界ならいざ知らず、日本の自動車業界も、

 "何十万の自動車業界に属する人々が、1円、2円の部品まで高品質に作り、10銭、20銭というコストダウンを地道に行い、 それらの成果の集まりで成り立っている自動車業界のトップが同じような高報酬を要求するのはいかがなものか"(msnマネー 渡邊 光太郎 )........という世界なわけです。

 自動車を構成している部品の7〜8割は部品メーカー(サプライヤー)が作っていると言われます。  自動車メーカーと部品メーカーは、 「厳しいコスト削減管理」と「共存共栄の思想」のバランスを取りながら競争力を高め、世界に通用する高品質な車の開発を進めてきたわけです。     日本の自動車業界はこのような努力を長年積み重ね、世界最高水準の部品を搭載する車を製造し、共に繁栄してきました。

 それに対し、ゴーン氏の経営手法の中核は、技術力や品質と相反する、"徹底したコスト削減"といわれます。  ある日産系のサプライヤーの売上高営業利益率は、わずか2%強しかなかったそうです。    ゴーン氏の高額報酬の出所は、「サプライヤーが潰れる」ことなどお構い無しの、他人から搾るだけ搾り取った挙句の成果なのです。

 2010年〜14年度の実際の報酬は百億円だったのに、約五十億円しか記載しなかったというゴーン氏は、 『高額報酬が開示されれば従業員の労働意欲が落ちると思った』、などと必死に働いている側からすると全くフザケタ言い訳をしているといいます。

 フランスはインドシナを植民地とし富を収奪して本国へ送る一方で、統治する総督はセッセと私腹を肥やしました。 私物化はトップの役得のひとつでもあるわけです。    昔から日本人は『身の丈にあった』生き方を美徳としてきました。  しかし今後の日本社会は、このような植民地政策的金儲けにとりつかれた、情容赦ない強欲人間をトップに据える企業だけが生き残り、 搾取した人間だけがいい思いをして、されたほうは低賃金に喘ぐ、という植民地的支配が横行する社会が当たり前となっていくのかもしれません。

 ゴーン氏の情容赦ないやり方は、日産系サプライヤーにとってはとんでもない悲劇だったわけですが、日産内部でも心ある人たちはそのようなやり方をさせられ堪らなかったでしょう。    もう「我慢の限界だった」、という声が出てくるのも当然です。

 以前は「技術の日産」というスローガンを掲げ、国産スポーツカーの最高峰スカイラインGT−Rなど優れた性能の車を次々に世に送り出し、 レースで使うなら絶対ニッサン車とまで言われたものでしたが、内部抗争などで徐々に業績が悪化、 やがて倒産寸前となったところでゴーン氏が登場し、やがて奇跡のV字回復していくわけですが、その救世主もいよいよムショ送りか、というのですから世の中わかりません。


ゴーン氏退治に舵を切った日産

 2018年11月、検察は日産自動車会長のフランス人・カルロス・ゴーン氏を逮捕しました。    ゴーン氏は1999年6月に日産COO(最高執行責任者)に就任して以来19年あまり、日産の絶対的な権力者として君臨。    倒産寸前の日産自動車をV字回復させ、日産、三菱自、ルノーグループを世界第2位の自動車メーカーまで育てたゴーン氏の逮捕劇に世界中が驚きます。

 東京地検が起訴した容疑は金融商品取引法違反で、ゴーン氏の役員報酬が2010年度〜14年度までの5年間で98億5500万円だったのが、有価証券報告書には半分の計49億8700万円と嘘の過少記載をしていたという、 金融商品取引法の有価証券報告書虚偽記載とされます。

 日本では2010年3月31日から1億円以上の役員報酬を個別開示する制度が始まります。 ゴーン氏の年俸はそれまで20億円前後だったとされていますが、 この制度を受け役員報酬の一部について受け取りを先送りし退任後に受け取るよう操作、自らの高額報酬を隠蔽し、年俸は10億円前後と過少に記載するようになります。

 ゴーン氏は日産が大赤字でも、無配転落でも、経営責任を取る様子は微塵もみせず、何億円もの報酬を得ていたといいますが、 そんなゴーン氏も日本の企業社会では己の報酬額が突出しているという認識はお持ちだったようで、 半分は退任後の「後払い」という形を取ろうとして有価証券報告書虚偽記載という墓穴を掘ったわけです。

 日本人の感覚からするとゴーン氏が受け取っていた報酬はトンデモナイ額なわけですが、世界の大企業ではむしろ少ない金額と言いますから、我々には理解できない別世界の話のようではあります。   しかし、日本には日本人のモラル(倫理、道徳感)があります。 日産の何倍も利益を出しているトヨタ社長の報酬はおそらくゴーン氏の5分の1以下、せいぜい数億だろうといわれます。

 大儲けしている日本のトップ企業といえど、それくらいが適切な報酬額だろうというのが日本人の感覚であり社会的合意があります。   汗水流して働き「金じゃあないヨ」と気高く振舞うのを良しとする日本人の美意識がまだ生きているわけです。    まあ、昨今は金融証券のように他人サマの金を使って丁半博打で荒稼ぎする方が儲かるようですから、ますます正直者が報われない時代になっていくのかもしれませんが。

 今回の逮捕劇は内部通報により発覚したといいます。 逮捕容疑以外にも特別背任罪と脱税の疑いも指摘されており、捜査当局は裏で相当な時間をかけ逮捕までこぎつけたようです。   このまま有罪となれば実刑という見方も強くなっています。

 有価証券報告書の虚偽記載ということになれば、日産という企業全体の責任が問われる問題でもあるわけですが、検察当局との司法取引も取り沙汰されており、 企業としての責任は限定的になるとみられています。(2018.12.8)


企業腐敗の根幹....歪んだ社内風土

 戦後の日産は、1953年の大規模な労働争議を頂点に、強力な左翼労働組合に翻弄されていきます。  このときに第二組合が誕生したことで会社側は窮地を救われますが、 これで組合に大きな借りをつくってしまい、これが後々経営の足を引っ張ることになっていきます。

 1973年まで16年にわたって社長の椅子に居続けた川又克二氏は、この第二組合の力を借りて、第一組合の切り崩しに狂奔し業績を盛り返し、『日産中興の祖』と評されます。   しかし、第二組合のボスとなった塩路一郎氏は、川又氏の懐刀として組合で絶大な権力を握るようになっていきます。 彼は日産の生産現場を牛耳り、人事権まで手中に収め、 経営陣でさえ逆らえないほどの絶対的な権力を長期にわたって行使。  日産自動車社内において、「塩路天皇」の異名を取るほどの権勢をふるうようになります。

 塩路氏は1972年には自動車総連を結成し会長に就任します。 自家用ヨットを所有し、「労組の指導者が銀座で飲み、ヨットで遊んで何が悪いか」とうそぶく、 まさに「労働貴族」の名に相応しい権勢振りだったといいます。

 1977年に社長に就任した石原俊氏は、英国工場建設を計画しますが塩路は猛反対、「強行したら生産ラインを止める」などと迫ったため、経営陣との関係が険悪化。  その後、塩路氏に女性スキャンダルが発覚するなど逆風が吹き始め、さらに職制組合員からの突き上げを受け塩路氏は労働組合から引退することになります。

 日産が凋落していく要因として語られるのが、権力の一極集中とそれに群がる取り巻きの増長、それを見て見ぬフリする社内風土とされます。  日産は過去塩路という労組トップが現場の人事を介して経営にまで介入し、経営戦略や役員人事まで口を挟み、役員ですら口出しできない異常事態に陥り業績が低下していきました。

 1999年、大赤字で倒産寸前だった日産はルノーから6430億円の出資を受け、ルノーの副社長だったゴーン氏を最高執行責任者に迎え入れます。    しかし、結局やりたい放題だったゴーン氏の、日産を食い物にする高額報酬問題が表ざたになり、銭ゲバ振りが明るみとなった挙句刑事事件にまで発展しました。

 ゴーン氏も塩路氏も絶大な権力を手にし、「専横(せんおう・好き勝手に振る舞うこと)な領主」として君臨し、やがて破滅していったわけですが、いずれにしろパターンは同じだったわけです。    今回のゴーン氏についても、いくら権力が彼に一極集中していたとはいえ、日産の経営陣がこのような株主を欺くような行為に対し、見て見ぬフリし頬被りしてきたのも事実なわけで、 人間に性格・気質があるように、日産という組織にも、悪いと思っても異を唱えられない、浄化作用が働かないなんらかの社内風土があるのかもしれません。

 不作為犯(ふさくいはん)とは、不作為(見て見ぬフリ)によって実現される犯罪をさすそうですが、大きな組織で引き起こされる不正の大部分は、 例え悪いと思っていても、誰も正そうとしない(出来ない)企業体制にあるわけです。  日産においても「ゴーンには徹底服従し、ゴーンの指示で忠実にリストラを繰り返す」 ことが出世の絶対条件と化し、ゴーンチルドレンの志賀氏と西川氏の熾烈なライバル関係が「ゴーンの独裁や暴走」を助長したわけで、彼らも「戦犯」と言わざるを得ないわけです。

 旧日本軍も上官の命令は絶対であり、逆らうことなど絶対許されない組織でしたが、道理が通らず専横気質の人物に権力を握らせてしまうと、 会社であれ国家であれ悲惨な末路が待っている、ということなのでしょう。

 今でもルノーは日産の大株主であり、40%以上の株式を握られ、これまでに1兆円もの配当金がルノーに支払われたといいます。    ルノーが01年3月期から18年3月期までに受け取った配当金の総額は8652億円。 投資額8016億円は全額回収したことになります。

 その後日産とルノーの力関係は逆転。 好調な日産に対し、ルノーは業績不振に喘ぐ事になり、今では利益も技術も日産におんぶに抱っこの関係となってしまっています。    つまり、かつての救世主がもはや『お荷物』となり、『ゴーン退治』、『ゴーン追い落とし』に日産が動いたというストーリーが背後にあるわけです。(2019.3.23)


「やっちゃったニッサン」から「技術の日産」へ復活を

 その昔、日産には自動車労連(現・日産労連)の会長として君臨し、生産現場はもちろん、経営中枢にまで影響力を及ぼす一方、 週末は女連れでヨット遊びに興じ「労働貴族」と揶揄された「塩路一郎」という人物がいました。 後に“悪行”が広く知れ渡り「退陣要求」を突きつけられて組合活動から引退しますが、 なにやらゴーン氏の先駆者のような存在です。 塩路に権力を与えたのは川又克二社長(任期1957〜73年)で、2人の関係は労使の癒着を生み、労組におもねる経営環境が日産を蝕み、競争力の低下を招いていたとされます。

 そのとき塩路氏排除に立ち上がった石原俊社長(1977〜85年)は一旦は労使関係を正常化させますが、後継の社長連中が無能だったため再びジリ貧が続き、とうとう仏ルノーと資本提携しゴーン氏に再建を託したわけです。    時代背景は違えども、塩路氏とゴーン氏に共通するのは、長く権力を握るうちに会社を私物化し、さらに経営幹部が彼らを恐れガバナンス不全の会社にしてしまった、というストーリーです。

 当時石原氏は社内の反塩路派を取りまとめる一方でマスコミを巧みに使い塩路派を揺さぶり追い出しに成功しました。    今回のゴーン氏逮捕劇では日産の一部経営幹部と、検察との司法取引に応じた専務執行役と元秘書室長の存在がありました。  正面からの戦いは無理と判断して検察を巻き込んだわけです。

 たしかにゴーン氏が日産を再生したのは事実ですが、それは良い車を作ったからではなく、徹底したコスト削減のおかげとされます。  日産に乗り込んできたゴーン氏は1999年10月、経営再建計画「日産リバイバルプラン」を掲げて2万1000人を削減します。 2009年2月にはグループ全体で従業員の約2万人削減。   合わせて4万1000人の首を切っています。

 その後の日産は売り物の技術力や、ワクワクする車作りという部分はすっかり影を潜めていきます。 ここ数年は新規モデルを全く出していません。    自分も昔は日産党で、チェリー、スカイライン、セレナと乗り継いだものですが、次のミニバン選びでは日産車に選択肢が無く、 結局トヨタ車に鞍替えしています。

 日産はこの事件を機に、「やっちゃったニッサン」ではなく、ゼヒ「技術の日産」を復活させ、我々が欲しくなるような車を作ってくれる会社に生まれ変わってもらいたいものです。(2018.12.8)


ゴーン氏の呆れた守銭奴ぶり

 ゴーン氏のゼニゲバぶりは相当なものだったようで、巨額の報酬以外にも、自身の結婚式費用や子供の学費、家族の旅行費用、世界各地に持つ別荘購入費も、全部日産に払わせていたといいます。     自分のサイフからは1円も出さなかったとされるゴーン氏の守銭奴ぶりは、日本人の感覚からすれば常軌を逸していたわけです。

 当時のゴーン氏の傲慢な振る舞いについては、後に側近たちからも続々と暴露話が噴出してきますが、そのひとつに「...当時、妻のリタさんが東京・代官山でやっていたレバノン料理店では、 日産自動車名義のクレジッドカード(コーポレートカード)で仕入れ代金を払っていた。 秘書部長が気がつき、ゴーンに『こんなことは困ります』と諫めると、 その秘書部長はすぐに小さな関連企業に左遷されてしまった....」、といいますからまさにやりたい放題だったわけです。

 あまりにもハデに日産を私物化しすぎてきた上に、公開分の報酬は低く抑え、残りの報酬は会長退任後に受け取るという、日産から身を引いた後にも大金をかすめとる算段をつけ、 やりたい放題の強欲ぶりに、サスガに日産の社員も黙っているわけにいかなくなったのでしょう。  日の丸の企業を食い物にする外国人経営者という構図も、日本人からは批判の目が注がれることとなります。

 今回のゴーン氏追い出し劇には、経営が思わしくない時は多少の不満があっても御輿に担ぎ手腕を発揮してもらう。   しかし、もう不要と判断したら引き摺り下ろす、というご都合主義の側面もありますが、いずれにしろ今回の逮捕劇の裏には、日本を軽んじる外国人経営者の追い出しという部分もあったわけです。      『用済み』となりつつあるゴーン氏に、これ以上タカられ続けるわけには行かないと判断したのかもしれません。

 ヨーロッパでは、一部のエリートが一般的な働き手と桁違いの多額の報酬を手にすることに不満を持つ人が増えているといいます。    ゴーン氏は、ルノーから年間9億円前後の役員報酬を得ていたとされ、「高過ぎる」と株主総会で毎年批判されてきたといいます。   フランス政府など株主からの批判を受けたルノーは、2016年のゴーン氏の報酬からボーナスにあたる業績連動部分を20%減額すると発表しています。(2018.11.30)


日産は再び「日の丸資本」となるか

 一方で、マクロン大統領とゴーン氏の関係があります。 2015年4月、当時経済相だったマクロン大統領が、フランス政府のルノーでの議決権を2倍に引き上げる指示を出し、 大統領になってからも「ルノー・日産の経営統合」を主張します。

 「コストカッター」と呼ばれるゴーン氏とすれば、仏政府のルノーへの経営介入は不況時に人員削減や工場閉鎖という手段が封じられ、望ましいものではありません。   しかし、ルノーCEOの任期が切れた2017年、ゴーン氏はマクロン大統領に歩み寄り、2022年までのCEO任期延長と引き換えに政府の介入を受け入れた、という背景があります。

 受け入れたゴーン氏は『主要部門について機能統合の拡大』を発表。 経営統合に舵を切り始めます。  日産には、このままではルノーに飲み込まれてしまうという危機感が急速に広がっていったわけです。

 フランス側の、「ルノーと日産、三菱自動車の経営を不可逆的なレベルまで統合する」、という方針が既定路線となった後のこの逮捕劇には、 統合に反対する日本による国策逮捕という側面もあるのは確かです。  統合を脅威と受け止めた日産、三菱自、経産省が今回の逮捕劇を演出した、という国家レベルの判断も裏にあることでしょう。

 この逮捕に異議を唱える声も上がっていますが、日米は「日米両国の企業と労働者をより良く守るため、国家が企業を支援するのは決してやぶさかではない」というスタンスです。

 今回の有価証券報告書の虚偽記載という容疑だけでゴーン氏逮捕劇が終決するはずはなく、日本側は「隠し球」を持っているハズです。     昔から本丸を正攻法で攻めても埒が明かないときの手段として、金の流れを徹底的に洗い出し逮捕に繋ぐというのは捜査の常識です。   かのアメリカの大物ギャング、アル・カポネも、脱税容疑でやっと逮捕できています。  まだまだ今後の推移を見守る必要があります。

 この逮捕により日産が完全に日の丸資本に戻りフランスの手から開放されれば、イギリスやアメリカにとってフランスに邪魔されずに日産と三菱自の生産工場の拡大などが可能となるわけで、 フランス以外の国は今回の逮捕はむしろ応援したいはずです。 フランスに肩入れする大物経営者の逮捕、という今回の出来事は、ルノーに牛耳られてきた日産と三菱自動車が、 ルノーとの連合関係の見直しへと進む可能性が高く、日本としてはチャンスにもなり得るわけで、日系自動車メーカーは再び“日の丸資本”となるかもしれません。

 いずれにしろ司法取引まで積極的に使用してゴーン被告を逮捕したことで、日産がルノーに吸収されることはなくなったのは確かです。 後にレバノンに密出国したゴーン被告が、 怨み話で『ウラで糸を引いた政治家の名前をバラすぞ』と凄んだのも当然なのかもしれません。

 今回のゴーン氏逮捕について異議を唱える側の意見として、『逮捕された人物は犯罪者とみなされ、推定無罪が機能しない状態は他の先進国からみると極めて異様で前近代的である』、とか、 『日本には「推定無罪」という法治国家の原則が欠如しており、世界中に恥をさらした』、などと言われますが、それはどこの国でも多かれ少なかれあることで、 日本だけが特別なわけではありません。

 "世界で最も個人の人権にうるさいフランスをわざわざ敵に回す今回の逮捕は、たとえゴーン氏を起訴して有罪にできたとしても、 『日本の刑事司法システムの前近代的な現状を世界に知らしめ』、あり方を変えざるを得ないという墓穴を掘る結果になるかもしれない"....。

 などという意見もあるようですが、日本も民主国家であり法治国家です。  罪に問えるか否かは日本の法律が判断することであり、これからの捜査で決まることです。(2018.12.1)


二転三転するゴーン氏拘留期限

 東京地検特捜部は11月19日にゴーン氏を「2011年3月期〜15年3月期の有価証券報告書の虚偽記載」の容疑で逮捕し、12月10日には「直近3年分の有価証券報告書の虚偽記載」の容疑で再逮捕、 というように事実は同じで期間だけが異なる容疑で逮捕を繰り返します。

 ところが、12月20日東京地裁は特捜部によるゴーン氏勾留延長の要求を認めない決定を下しました。  東京地検はこれを不服として裁判所に準抗告しますが、裁判所はこれを却下するという事態となります。   刑事裁判では裁判官と検察は“一枚岩”とされ、通常であれば勾留延長の請求は無条件で裁判所に認められるケースがほとんど(例外はわずか0.02%)とされますが、 今回裁判所がその請求を退けたというのは極めて異例とされました。

 この裁判所の判断には、ゴーン氏の長期勾留に対して海外から批判が高まっていることが影響しているとみられていますが、 もしそうであれば裁判所は外圧に屈したということであり、「誰もが法のもとに平等」という憲法の公平性崩壊とも言うべきゆゆしき事態であるという意見も出ます。

 検察は金融商品取引法違反容疑でゴーン氏を逮捕して、身柄を拘束しながら特別背任罪の証拠を固めて、同罪での起訴を狙っていた節もありますが、 そもそも有価証券報告書における役員報酬の虚偽記載が、金商法上の『重大事項の虚偽記載』に該当するのかを疑問視する指摘も多く、脱税で罪に問えるかも不透明、という意見もあります。(2018.12.21 Business Jouurnal 引用)

 すると東京地検は21日、会社法違反(特別背任)の容疑で再逮捕し、自宅へ家宅捜索に入ります。  ゴーン氏の逮捕はこれで3回目となるわけですが、2008年に私的な投資で生じた約18億5000万円の損失を、 ゴーン氏が日産に付け替えたとして私的な株の損失を会社に負担させるなどした特別背任の疑い、といういよいよ本丸に切り込んだわけです。

 保釈目前の再逮捕を了承した検察上層部としては、裁判所が欧米メディアを中心とする長期勾留批判の「外圧」に屈し勾留延長を却下した、と判断し消極姿勢を転換したものと見られます    ただ、検察が長期にわたり身柄を拘束できる、という日本の刑事手続きが表ざたになったわけで、海外からも疑問が向けられることになるでしょう。

 今回の特別背任罪での逮捕は明らかに勾留が目的であって、さすがに起訴は無理だろうとする意見もあります。  検察のロジックは「10年も前の投資である特別背任罪の公訴時効は7年だが、 ゴーン氏の海外渡航中の期間は除外されるため時効は成立しない」、とされます。

 長期勾留という手段で自白を取るのが検察の常套手段ですが、一連のゴーン氏逮捕劇によって、 日本の刑事手続きの“人権蹂躙司法”、“人質司法”が海外から批判を浴びているとされます。  逮捕に踏み切った検察の今後のやり方が注目されます。(2018.12.22 THE SANKEI NEWS 引用)

 その後12月26日未明にゴーン氏側近のケリー氏が保釈されましたが、自分は無実であり裁判で徹底的に争うと表明しましたから、検察側は一歩後退した印象です。

 ゴーン被告(64)は3回目の保釈要求がやっと認められ、2019年3月6日、108日間に及んだ勾留から保釈されました。


ゴーン氏逮捕劇の結末

 保釈後は自由気ままに行動していたゴーン氏は、保釈初の会見予定を発表するなど検察に対する報復戦を目論見ますが、2019年4月4日、あえなく再逮捕されます。 これで都合4度目の逮捕となりました。

 今度は中東オマーンの販売代理店に支出させた日産の資金を、私的に流用したとして会社法違反(特別背任)の疑いがかけられたようです。

 植民地時代のフランスは、インドシナ(仏印・現在のベトナム、ラオス、カンボジヤ)やアフリカ諸国を植民地とし、現地の富を収奪して本国へ送る一方で、統治する総督はセッセと私腹を肥やしました。   21世紀の時代でも、フランス人のやることはあまり変わらないようです。

 そもそもゴーン氏保釈の条件というのが、シロウトが聞いても眉唾物の約束毎でした。  弁護団は監視カメラの設置や弁護人によるゴーン氏の動静監視報告、ゴーン氏が事件関係者との接触をしないこと、 弁護人の法律事務所以外でのパソコン等の使用の禁止、というものを裁判所に申し出て保釈を勝ち取ったようです。

 しかし、どうやらゴーン氏は弁護人の法律事務所での携帯電話の使用や、外国の報道機関との接触や動画の撮影、さらにはツイッターでの発信など、やりたい放題だったとされます。     モチロン、こうなるであろう事態は、だれもが予想していたはずで、裁判所もよくも保釈決定したものです。

 今回の逮捕は、ゴーン氏が万一、証拠隠滅まがいの行為に及んでも、検察当局にはこれを有効に阻止する方法がないと判断し、 証拠隠滅等の行為をさせないために身柄拘束した、という見方ができます。

 東京地検特捜部はゴーン容疑者の妻の任意聴取も検討しているようです。  ゴーン氏の妻が代表を務める会社が、振り込まれた資金の一部をクルーザー購入代金に充てた疑いが浮上しており、 入金の経緯や使途などについて説明を求めるようです。(2019.4.7)


国家の報復合戦となったゴーン氏逮捕

 2019年1月11日、フランス司法当局は日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長を訴追する手続きを開始しました。   竹田氏の疑惑は日本の招致委員会の委員長として賄賂を使ったというもので、少なくとも2016年5月の時点でイギリス紙「ガーディアン」の報道などで捜査が行われていたことが明らかになっていたものです。     それがこのタイミングで捜査の再開が表面化したことは、ルノー氏逮捕への『フランス政府からのメッセージ』と捉えられました。

 2010年に起きた尖閣諸島(沖縄県石垣市)での中国漁船衝突事件では、海上保安庁が中国人船長を逮捕しましたが、 中国は報復として中国にいた日本人会社員4人を拘束したうえで、日本政府に船長の釈放を要請しています。  結局中国人船長は処分保留で釈放され、日本人会社員も後日解放されています。

 中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の最高財務責任者が米国の要請によりカナダで逮捕されたとき、 中国は同国内にいるカナダ人のビジネスマンや元外交官を拘束しています。    2018年12月に米国でロシア人女性がスパイ容疑により有罪になると、ロシアは同月に米国人男性を同じくスパイ容疑で拘束しました。  このように国際政治の世界では逮捕や身体拘束の応酬は日常茶飯事となっています。

 ちなみに、同じ程度の容疑を理由に相手国の国民を拘束することは、事態をさらに悪化させないための知恵でもあるとされます。  竹田氏もゴーン氏と同じく他国の関係者への資金提供が不正だったと疑われています。

 竹田氏は2018年12月10日にすでにフランス当局から事情聴取を受けたそうですが、ゴーン氏が特捜部に逮捕されたのは昨年11月19日で、12月10日は金融商品取引法違反の容疑で再逮捕された日でした。

 今回の出来事により「人質司法」と批判されてきた日本の司法制度、そして特捜部の強引な捜査手法が国際社会から批判を浴びつつあります。    フランスから見れば日本政府が特捜部を使ってゴーン氏を追放しようとしていると認識しているのでしょう。     日本流の法の支配や善悪の規範などが、諸外国からどう受け取られるか、今後の展開に要注意です。(2019.1.12)


ゴーン被告保釈中にレバノンに逃亡

 会社法違反罪などで起訴され保釈されていたカルロス・ゴーン被告は、無断で2019年12月29日夜に関西国際空港を離陸し、30日朝にトルコ・イスタンブールの空港に到着、その後レバノンに逃亡します。

 この逃亡劇には元米陸軍特殊部隊隊員ら米民間警備会社が関与しており、ゴーン前会長を隠すためコンサートで使われる音響機器を運ぶ大型の箱を載せたプライベートジェットでドバイから関西国際空港に到着。    その後ゴーン被告が日本を離れる際箱の中に潜んで機内に運び込まれたといいます。

 逃亡に使われた2機を運航するトルコのプライベートジェット運航会社「MNGジェット」は30日朝にトルコ・イスタンブールに到着。 ゴーン前会長が隠れていた箱の底には、 呼吸用の穴が開けられ、移動しやすいよう車輪も付いており、もう一つの箱にはスピーカーが入っていて、ともに音響機器だと空港の検査でごまかすためだった可能性があります。

 プライベートジェットでの荷物検査は、実は非常に手薄であるとされ、さらに年末の出国ラッシュの入管の混乱を狙ったことは明らかです。  巨大な箱は通常のX線検査装置には通せないため、 出入国審査官が楽器ケースのように見えたものを適切に検査せず、あるいはいっさい確認せずに、口頭でのやり取りだけで機内に載せてしまった可能性が非常に高いわけです。

 日産側が事件関係者に接触して口裏合わせなどの証拠隠滅を図ることを防ぐ目的で東京都内の警備会社を使い行動監視していたのを、 ゴーン被告の弁護団が刑事告訴すると表明し、行動監視を29日にいったん中止した直後の逃亡だったため、東京地検特捜部はゴーン被告が監視をやめさせて逃亡を図りやすくするため、 刑事告訴を悪用した疑いもあるとみて調べます。

 保釈後逃亡した事件は、平成の初め頃イトマン事件の許永中被告が許可を得て出国し、そのまま逃亡したケースがあります。  いずれにしろこれでゴーン被告の保釈は取り消され、 本来は裁判が終われば返還されたはずのゴーン被告が納めた保釈保証金15億円も没収されることとなるわけです。  これだけの額を捨ててでも逃走するのですからよほど何か裏があるのでしょう。

 弁護人の弘中惇一郎弁護士は「寝耳に水という感じでびっくりしているし、当惑している」と述べますが、そもそも厳格な条件を提案してゴーン被告の保釈を得た弁護側には、 当然ながらこのような事態を防止する責任があるはずです。  弁護人があの手この手を尽くして細かい条件と引き換えに保釈を得た結果が逃亡というのですから、 まさに「日本の刑事司法の恥を世界にさらした」わけです。

 そもそも検察側は当初から「保釈すればいつか逃亡する」と考え、証拠隠滅や逃亡の恐れを理由に保釈に強く反対していたといいます。  このまま逃げ得を許しては司法の信頼が失墜します。

 東京地裁の島田一裁判官は証拠隠滅の恐れを認めながらも「弁護人らの指導監督が徹底している」などとして保釈を許可していますが、保釈金15億円が没収されるのは当然としても、 保釈を認めた地裁の判断が適切だったのか厳しく問われなければ再発防止は叶いません。(2020.1.4)


日本の司法制度は「非人道的」?

 保釈が認められるのは、逃亡や証拠隠滅の恐れが高くない場合に限られるはずですが、保釈を許可する割合(保釈率)は平成20年では1割台だったのが29年には3割台へと倍以上に増加しています。    さらに保釈中の被告が凶悪事件を起こす例も相次いでいます。

 こんなザル管理では裁判所や弁護士ともども保釈制度を考え直す必要があります。 保釈を認めた裁判所と、保釈条件を守ると誓約しておきながらゴーン元会長を逃した弁護人の責任は相当に重いわけです。    対する検察は、今回の逃亡劇を盾に、裁判所や弁護人に保釈の運用について強い姿勢を示すこともできるようになったといえます。

 日本は米韓の2カ国としか犯罪人引渡し条約を結んでいないのだとか。  ゴーン被告の逃亡先のレバノンと日本の間にも犯罪人引き渡し条約は結ばれておらず、 レバノン政府の理解を得られないと、被告は引き渡されないといいます。    国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)がゴーン被告に対し「赤手配書」を出しますが、これは暫定的に身柄を拘束するよう各国警察に求める文書で、逮捕令状ではありません。

 いずれにしろ世界的に注目されるゴーン被告の逃亡をまんまと許したことは、日本の刑事司法を揺るがす前代未聞の事態です。    ゴーン被告は二度と日本の土を踏むことはないのでしょうから、この裁判もこのまま終わりとなるのが濃厚です。  ただ、 これで少なくともゴーン元会長の無罪判決という最悪のシナリオも消えたわけです。

 ただ、これまで有価証券取引違反などという一般人に分かりにくい罪名で報道されていたゴーン被告は、今回「密出国」という判り易い罪を犯したのですから、 日本政府は各国に指名手配する明確な口実ができたわけです。  法務、外交当局などは総力を挙げレバノン政府側に働きかけるのはもちろん、国際的な手配など、 あらゆる手段を講じゴーン被告を日本に帰国させ法廷で真相を語らせなければなりません。

 ゴーン被告は保釈条件で妻との面会を禁じられたことを「非人道的だ」などと批判し、自身の逃亡を日本の司法制度の問題にすり替え正当化していますが、逃亡という新たな罪を犯した事実は消えません。    日本の司法制度を時代遅れなどと擁護する論調もありますが、一国の司法制度はその国の主権であり誰かの都合に合わせた刑法にする必要はなく、あくまで犯罪抑止という立場で議論されるべきです。

 日本の制度の中で日産という日本の会社を散々食い物にし、私腹を肥やしておきながら、司法制度の自分の都合の悪い部分だけ批判し、さらに無断で逃亡したのですから卑怯ともいえる恥ずべき行為でしょう。     そもそもキャロル容疑者は一連の事件に絡む「容疑者」であり、だからこそ東京地裁はゴーン被告の保釈の条件として妻との面会は禁止にしたわけです。

 ゴーン被告逃亡劇後、東京地検特捜部は妻のキャロル・ナハス容疑者の逮捕状を取ります。 特捜部の市川宏副部長は、 「キャロル容疑者は多数回にわたり証拠隠滅をした上、偽証をした疑いがあり、だからこそ東京地裁は保釈と同時に面会禁止にした。  非人道的との批判は一方的で誤解があり、 是正する必要がある」、としています。

 キャロル容疑者が一連の事件に絡む「容疑者」であることを明確化することで、措置の適正さとともに、国外逃亡という事態に対する捜査当局の厳しい姿勢を、 国内外にアピールする狙いがあるとみられます。

 いずれにしろ、非合法グループが国内に密入国しゴーン元会長の「極秘出国」をやすやすと実現したわけで、日本ではテロ行為が容易に起こりうることを示唆しています。    今後は徹底した水際作戦とセキュリティー対策を講じる必要があります。(2020.1.4)




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(*1).....大久保利通(おおくぼ としみち)

明治維新の元勲であり、西郷隆盛、木戸孝允と並んで「維新の三傑」と称される。 初代内務卿(実質上の首相)を務めるなど、内閣制度発足前の明治政界のリーダー。

金銭には潔白で私財を蓄えることをせず、それどころか必要だが予算のつかなかった公共事業には私財を投じてまで行い、国の借金を個人で埋めていた。 そのために死後の財産が現金140円に対して8,000円もの借金が残り、所有財産も全て抵当に入っていたが、大久保の志を知っていた債権者たちは借財の返済を遺族に求めなかったという。(Wikipedia)

(*2).....大隈重信(おおくま しげのぶ)

第8代 内閣総理大臣。 早稲田大学の創設者であり、初代総長。

浦上信徒弾圧事件の際、イギリス公使ハリー・パークスとの交渉役に英語が話せる大隈を指名。 まだ31歳だったため、パークスは「大隈ごとき身分の低い小役人とは話はできぬ!」と激怒したという。 しかし大隈は「一国の代表者である私と話したくないと言うのなら、抗議は全面撤回とみなす。また、あなたの言うことは、国際法で禁止されている内政干渉である」と言い返し、互角に渡った。 パークスは日本を極東の小さな島国ぐらいにしか思っていなかったため、日本の若者の口から“国際法”や“内政干渉”という単語が出てきた事に驚いたという。(Wikipedia)


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